ハイパーサーミアに関する最近の話題41

マイクロ波加熱の臨床応用
齊藤 一幸(千葉大学フロンティア医工学センター)

我々はこれまで,ハイパーサーミアをはじめとして,マイクロ波エネルギーによって生体組織を加熱する技術について研究を行ってきた.この技術は,ハイパーサーミア以外にも応用可能である.そこで本稿では,我々が行っているマイクロ波による生体加熱の技術を利用した外科用処置具(エネルギーデバイス)の開発について紹介する.
今日の外科手術では,従来の開腹手術のみならず,腹腔鏡手術や内視鏡的手術,さらには,ロボット手術といった低侵襲な手技が広く行われ,患者のQuality Of Life (QOL)向上に貢献している.また,これら
の手技において,電気メスや超音波組織凝固切開装置などのいわゆるエネルギーデバイスが多用されている.これらの器具は,エネルギー源は異なるものの,いずれも短時間で生体組織を高温に加熱し,切開,止血,吻合などを行うものである.さらに,これらの行為を単体で行うだけでなく,切開と止血を同時に行うことも可能であるため,現在では,外科手術になくてはならないデバイスである.しかしながら,これらの器具にも解決すべき問題点がいくつか存在する.まず,電気メスは,術者が持つハンドピース近傍に高周波電流(周波数:数100 kHz)を集中して放
電を生じさせることによって,生体組織を高温に加熱し,蒸散させることによって切開する.また,組織中に流れた高周波電流によって生じるジュール熱により,生体組織を凝固することも可能である.この電気メスでは,組織の切開は非常に効率よく行えるものの,組織の凝固はそれほど得意ではない.例えば止血のため,生体組織の広い範囲を凝固させようとすると,術者の操作によっては生体組織が炭化してしまい,煙が発生することがある.これが開腹手術時であれば,それほど大きな問題は生じないものの,例えば腹腔鏡下手術においては,腹腔内に煙が充満することで腹腔鏡(カメラ)による視野が低下する.一方,超音波組織凝固切開装置では,術具先端部が超音波振動し,これを生体組織に作用させることでその組織内に摩擦熱を生じさせ,組織凝固・切開をする.超音波組織凝固切開装置は,このように機械振動に基づく器具であるため,周辺の血液や体液がしぶきとして周囲に飛び散ることがある.この場合も,開腹手術時であればそれほど大きな問題はないものの,腹腔鏡下手術では,挿入したカメラのレンズにしぶきが付着して,視野が低下する.さらに,凝固した生体組織が器具にこびりつくことがあり,これを無理に引きはがそうとすると,再出血を引き起こす可能性もあり,注意が必要である.
一方,我々は,ハイパーサーミア用マイクロ波アンテナについて研究を続けてきた1).その経験を踏まえ,適当な構造のマイクロ波アンテナを試作し,摘出臓器表面を加熱したところ,組織の炭化やしぶきが生じることもなく,非常にきれいに,かつ広範囲の組織を凝固できることがわかった.これは,電気メスにおいては,ハンドピース・対極板・電源が閉ループを構成して高周波電流が流れるのに対し,マイクロ波のデバイスでは,加熱のためのエネルギーが“電磁波”として術具(アンテナ)先端から放射されるという違いに起因する.すなわち,電気メスのハンドピースは電極であるので,その先端部分を丈夫な被覆で覆うと電流を遮断してしまう(ごく薄い膜であれば高周波電流は通過できるので,コーティングを施したハンドピースは販売されている).これに対して,電磁波は真空中でも伝搬可能であり,当然のことながらアンテナ先端部の厚い被覆も通過する.したがって,例えばフッ素樹脂コーティングを施せば,生体組織の炭化や凝固した組織が器具にこびりつくといったことも低減可能である.近年,マイクロ波のこれらの特性が評価され,マイクロ波エネルギーを用いた開腹手術用術具が開発され2),市販されている3).
しかしながら,マイクロ波エネルギーを利用すると,生体組織凝固は十分に行うことができるものの,電気メスや超音波組織凝固切開装置のように,生体組織の切開はできない.したがって,現状では,“切開する部分の組織を凝固した後に,その部分を刃で切開する”(出血なしで組織切開が可能)もしくは,マイクロ波エネルギーの組織凝固特性のみを利用し,“止血を行う”の2つの使用方法が考えられる.こういった状況を改善するために,我々は,組織切開特性に優れた電気メスと,マイクロ波エネルギーによる組織凝固デバイスを組み合わせた数種のまったく新しい外科治療デバイスを開発した.同様のコンセプトで文献4)では,電気メスに類似したペンシル型のデバイスが提案されている.そこで我々は,管状組織(多くは血管)を封止・切断するシーリングデバイスを開発した5).このデバイスでは,封止したい管を鉗子状デバイスで挟み,この鉗子部分に内蔵されたアンテナよりマイクロ波を放射し加熱・封止を行う.さらに,鉗子部分に複数内蔵された電極間に高周波電流を流し,目的部位を切断する.すなわち,現存のシーリングデバイスのように刃を用いることなく,また,高周波電流による火花・煙の発生は最小限に抑えた管状組織のシーリング処置が可能である.
当初はハイパーサーミア用に開発した生体組織加温技術が,別の形で臨床現場に貢献できる可能性があることを知っていただけたら幸甚である.

参考文献
1)    Saito K., et al. Clinical trials of interstitial microwave
hyperthermia by use of coaxial-slot antenna with two slots. IEEE Trans.
Microwave Theory Tech, 52: 1987-1991, 2004.
2)    Tani T., et al. The invention of microwave surgical scissors for
seamless coagulation and cutting. Surg Today, 48: 856-864, 2018.
3)    伊藤瑳恵. 出血なしに血管を切離。新デバイスの実力は?. 日経メディカル2017年4月18日.
4)    Tsiamoulos Z. P., et al. A novel multimodality endoscopic device for
colonic submucosal dissection using a combination of bipolar radiofrequency
and microwave modalities. Endoscopy, 48: 271-276, 2016.
5)    杉山ら. マイクロ波と高周波電流を併用した鉗子型外科処置デバイスの血管封止能力評価. 2017年電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ大会講演論文集, 84,2017.

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