学術報告

ハイパーサーミアに関する最近の話題40

ハイリスク膀胱がん(Ta, Tis, T1, T2)における臓器温存に関する深部領域加温と併用した化学放射線療法の長期成績

河合 憲康(名古屋市立大学大学院医学研究科 腎・泌尿器科学分野

 

本邦で膀胱がんの治療に放射線化学療法や温熱療法が施行される例は多くはないが,ここで紹介する最近の論文はドイツでの長期にわたる臨床成績の結果である1).本研究の目的は,経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)後の領域深部加温(RHT)を併用した化学放射線療法(RCT)の臨床成績と安全性を評価することである.1982年から2016年にわたり,ハイリスク369名の膀胱がん患者(深達度評価で,pTa, pTis, pT1, およびpT2 cN0-1, cMO(所属リンパ節転移,遠隔転移無))に対してTUR-BT後,集学的治療が行われた.全ての患者に対して膀胱と所属リンパ節に放射線治療(RT)が行われた.このうちRCTが行われたのは215名,RCT+ RHTは79名に実施され,RTのみは75名であった.治療応答については,4-6週後に評価された.

RT,RCT,RCT+RHT後の評価のための2回目のTURBTの結果は,ハイリスク表在癌(Ta,Tis,T1)の完全治癒(comlete remission:CR)は,RT,RCT,RCT+RHTの順で146/166(88%),19/22(86%),87/99(88%)であった.筋層浸潤癌T2のそれは,26/44(59%),91/109(84%),27/32(84%)であった.多変量解析ではRCTはRTよりCR率を向上させるが,RCT+RHTはさらにCR率を向上させるという結果ではなかった.

5年および10年全生存率はそれぞれRCTで64%(95%CI,58%-71%),39%(95%CI,33%-47%),RTで45%(95%CI:35%-58%), 19%(95%CI:12%-13%),RCT+RHTで87%(95%CI:79%-95%,60%(95%CI:47%-77%)であった.多変量解析でRCTはRTより全生存率の向上に寄与しており,さらにRHTの追加は,さらにそれの向上に寄与していることが示された.

5年および10年全無病生存率に関しても,多変量解析でRCTはRTより無病生存率の向上に寄与しており,さらにRHTの追加は,さらにそれの向上に寄与していることが示された.

観察期間中に55例は膀胱全摘除術となった.5年及び10年後の膀胱温存率はRCT+RHT,RCTの順で96% vs 82% ,96% vs 78%であり膀胱摘除術になるまでの期間をRCT+RHTとRCTで比較すると,RCT+RHTのほうが長かった.

治療毒性については,膀胱刺激症状,胃腸症状,嘔吐症状のほか,検査所見で白血球減少,血小板減少などGrade3-4の出現率を比較すると,RT,RCT,RCT+RHTで差はなかった.

 

 

TUR-BT後にプラチナを基本とした同時RCTをRHTと併用して行う集学的治療は悪性度の高い膀胱がん患者に関して,局所制御,膀胱の温存率,および全生存率において改善効果が認められた.本法は膀胱全摘出術に代わる治療法として有用と思われる.但し,本論文では患者背景で年齢,悪性度や初回TUR-BTの成績によって治療バイアスがかかっている可能性もあり,内容評価には注意が必要である.また,今後は患者の利益を考慮した集学的治療を行う際にはさらなる泌尿器科医と放射線治療医の緊密な連携が必要となろう.

参考文献

1)  Merten R et al. Long-Term Experience of Chemoradiotherapy Combined with Deep Regional Hyperthermia for Organ Preservation in High-Risk Bladder Cancer (Ta, Tis, T1, T2).

     Oncologist, 24: e1341-e1350, 2019.

 

用語解説

TUR-BT:Transurethral resection of bladder tumor, 経尿道的膀胱腫瘍切除術,

RHT: Regional Deep Hyperthermia; ここでは BSD-2000 3D/PC-Hyperthermia System (BSD Medical Corporation, Salt Lake City, UT)を使用.Sigma Eye あるいは Sigma-60 applicator を使用.周波数,90–100 MHz.

 

原発腫瘍の壁内深達度

TX

原発腫瘍の評価が不可能

T0

原発腫瘍なし

Ta

乳頭状非浸潤がん

Tis

上皮内がん(CIS)

T1

上皮下結合組織に浸潤する腫瘍

T2a

筋層の半ばまでの浸潤

T2b

浸潤が筋層の半ばを越えるもの

T3a

膀胱周囲脂肪組織への顕微鏡的浸潤が想定される

T3b

膀胱周囲脂肪組織への肉眼的にはっきりとした壁外浸潤が想定される

T4a

前立腺※,精嚢,子宮あるいは腟への浸潤

T4b

骨盤壁あるいは腹壁への浸潤

※前立腺にある尿道に上皮内がんが進展した場合や表在性がんが発生している場合,浸潤ではなく,多発している病態であり,T4aには分類されません.

ハイパーサーミアに関する最近の話題39

近赤外光照射による磁性ナノ粒子の加温とハイパーサーミアへの応用

井藤 彰(名古屋大学 大学院工学研究科 化学システム工学専攻)

 

マグネタイト(Fe3O4)からなる磁性ナノ粒子は高周波交流磁場でヒステリシス損失あるいは緩和損失といったメカニズムで発熱することから,腫瘍組織に磁性ナノ粒子を投与して体外から交流磁場照射を行うハイパーサーミアへの応用が行われている1).一方,金ナノ粒子は近赤外光の照射でプラズモン効果によって光のエネルギーを熱へ変換することから,金ナノ粒子のフォトサーマル効果を利用したハイパーサーミアが開発されてきた2).最近,マグネタイトも近赤外光で発熱することが分かり,ハイパーサーミアの研究が行われている.Chuらは,808 nm(0.25 W/cm2)のレーザーを使用して,0.8 mg/mLのマグネタイト(粒子径約10 nm)を照射したところ,20分間で25℃の発熱が得られたことを報告した3). この加温により,in vitroにおける検討でヒト食道がん細胞株Eca-109の生細胞率を40%に減少させた.さらに,in vivoにおける検討で担癌マウスの腫瘍増殖を24日間にわたって抑制した.

マグネタイトの磁場誘導加温によるハイパーサーミアシステムは,磁場照射装置の開発が実用化へのボトルネックになる可能性がある.一方,近赤外光の照射装置は開発が比較的容易であり,機器自体の価格も低く抑えられる利点がある.しかし,磁場が体内を透過しやすいのに対して,近赤外光の照射によって透過するのは体表面から数ミリメートルであるとされるが,米国立がん研究所の小林久隆博士が開発した近赤外光線免疫治療法においても,深部癌に対しては内視鏡を使用されることから,近赤外光を用いたレーザー装置の開発は加速されるであろう.

ナノ粒子を用いるハイパーサーミアにおけるもう一つのボトルネックは,薬物送達システムである.つまり,治療のための発熱に十分なナノ粒子を腫瘍に送達することが困難である.最近Guoらは,ミトコンドリア集積性のある脂溶性カチオン(Triphenylphosphonium cation, TPP)で表面修飾したマグネタイトを用いることで,ミトコンドリア標的型のマグネタイトを開発し,近赤外光でミトコンドリアを加温するシステムについて報告した4).このような「ガンの急所を攻撃するナノヒーター」を用いることで,腫瘍に送達されるナノ粒子が少量であっても高い治療効果を示すハイパーサーミアが可能になるかもしれない.

参考文献:

1)  Ito A., et al. Intracellular hyperthermia using magnetic nanoparticles: A novel method for hyperthermia clinical applications. Thermal Med, 24: 113-29, 2008.

2)  De Matteis V., et al. Engineered gold nanoshells killing tumor cells: New perspectives. Curr Pharm Des, 25: 1477-89, 2019.

3)  Chu M., et al. Near-infrared laser light mediated cancer therapy by photothermal effect of Fe3O4 magnetic nanoparticles. Biomaterials, 34: 4078-88, 2013.

4)  Guo R., et al. Mitochondria-targeting magnetic composite nanoparticles for enhanced phototherapy of cancer. Small, 12: 4541-52, 2016.

 

ハイパーサーミアに関する最近の話題38

 

ハイパーサーミアがん治療法の開発に向けた新情報 ――p53は熱射病発症の閾値温度(40℃)では細胞致死防護因子として働く ――

鈴木文男(富山大学客員教授,広島大学名誉教授)

 

がん抑制遺伝子産物p53は,200種類以上の機能の異なる遺伝子を発現制御している転写因子である1.p53は正常細胞内ではユビキチン依存性のタンパク質分解システム (proteasome system)を介して速やかに分解されるため極めて少ない量しか存在しない.しかし,細胞内外の多種多様なストレスを受けるとp53はその種類に依存して特定の部位が修飾され,分解されずに安定化したp53が標的遺伝子の転写を促進し,種々の細胞応答 (cellular response)が引き起こされる.その結果,細胞周期進行の一時的な停止,細胞老化形質発現,アポトーシスなどが誘発されるが,これらの異常はいずれも生体内においては変異細胞の蓄積につながるのでp53はがん発症にもつながる遺伝子不安定性の防止をつかさどるゲノム守護神 (the guardian of the genome)として位置付けられている.

ハイパーサーミアは種々のがん治療に広く用いられている.その根拠は,比較的がん細胞は熱に弱く,患者に負担をかけることなく,非侵襲的に治療できるところにある.実際,ハイパーサーミア治療で使われる(41.5℃~45.5℃)の熱処理によりDNA二重鎖切断(DNA double-strand breaks)が誘発されがん細胞が死滅するとともに2,そのシグナルを受けてp53がリン酸化されることが証明されている3.しかし,ヒトがんの約50%が変異型のp53を有し,それ以外でもp53が関与するシグナル伝達経路 (signal transduction pathway)を担う多くの因子に機能喪失が見られることから,熱処理単独でのがん治療には限界があるものと思われる.今回は,ハイパーサーミアによるがん治療法の改善という観点から,最近Cell Reportsに報告された「熱射病発症の閾値温度(Heatstroke threshold temperature: HTT)とされる40℃の熱処理では正常細胞よりp53変異細胞の方が死滅しやすくなる」ことを証明した論文4を紹介する.

まず,著者らは,野生型と突然変異型のp53を有するゼブラフィッシュ胎児を用いて40℃ (HTT環境)と45℃ (ハイパーサーミア環境)で飼育したときの生存能を比較した.その結果,45℃では野生型p53胎児の方が変異型p53胎児に比べて死にやすくなるが,40℃では逆となりp53は生存能を高めることがわかった.ヒト培養細胞では40℃と45℃で熱処理され,45℃では野生型p53(p53+/+)細胞の方が変異型p53(p53-/-)細胞に比べて生存能が低くなるが,40℃では全く逆の結果が得られた.前者の結果は,ATM-p53を介したDNA損傷応答 (DNA damage response: DDR)が活性化されたためアポトーシス誘発頻度が高まったことで説明できるが,後者については両細胞種間で処理後の細胞周期進行停止やアポトーシスおよびネクローシス誘発頻度に差が見られなかったことから,40℃処理による細胞致死効果のp53依存性は他の細胞応答反応に起因することが示唆された.そこで次に,著者らは40℃下でどの様な熱ショック応答 (heat shock response: HSR)反応が誘発されるかについて調べた.

突如とした温度上昇に対処するために,広範な生物種にわたって数多くの熱ショックタンパク質 (heat shock proteins: HSPs)が発現している5.特に高次構造異常や凝集したタンパク質と結合し,オートファジー (autophagy)システムによって排除する細胞内浄化に関わる分子シャペロン(molecular chaperon,HSPの一種)は細胞内タンパク質の恒常性 (homeostasis)維持に欠かせないものである.著者らはヒト培養細胞を40℃で処理によってhsp遺伝子の転写を担うhsf1遺伝子の発現がp53+/+細胞よりp53-/-細胞で高くなること,さらにhsf1遺伝子の標的遺伝子であるhsc70 (heat shock-cognate protein of 70 KDa)の発現も同様に高まることを発見した.この結果は,HSC70はシャペロン介在性オートファジー (chaperon-mediated autophagy: CMA)の初期段階に関与していることから6,p53-/-細胞では40℃で過剰なHSRが誘発され,細胞内に蓄積したHSC70が異常レベルのタンパク質分解を引き起こし,細胞死に至らせることを示唆している.

興味あるのは,hsf1遺伝子のプロモーター領域にp53が結合してHSC70の発現を抑制することや,40℃処理でp53の37番目セリン (S37)がリン酸化すること,さらにS37がリン酸化されていないp53ではhsf1のプロモーターに結合してhsf1の発現を抑制することを,著者らが報告していることである.また,40℃下ではHSP90が蓄積しp53と結合してその機能を保全することや,HSP90を涸渇状態にするとp53の細胞内蓄積量が低下して細胞の生存能が低下することも見つけている.これらの研究結果は,細胞の生存能測定を精度に難点のあるMTT法 (ミトコンドリア内脱水素酵素によるホルマザン生成量を指標)のみで行っている点に不安はあるが,種々の分子生物学的手法を駆使して①p53が40℃での過剰反応的なHSRを抑制することによって細胞死を防止していることや,②40℃下では過剰なHSC70を介したタンパク質分解による細胞死が生じること,③p53は40℃でも37番目セリンがリン酸化されずHSP90と結合して安定的に存在することを証明している.

加えて著者らは,p53+/+細胞とp53-/-細胞を移植し40℃下での腫瘍増殖動態を調べた結果,p53+/+に比べてp53-/-細胞腫瘍の方が,増殖度が低下することを報告した.この論文で示された結果は,完全に腫瘍増殖を止める程ではないものの,HTT (40℃)温度の熱処理が正常組織に障害を与えることなくp53欠損がん細胞の増殖抑制 (がん治療)に使えることを示したものであり,今後はハイパーサーミアがん治療法の開発に向けた臨床応用研究へと発展することが期待される.

参考文献

1)   Levine AJ., et al. The P53 pathway: what questions remain to be explored. Cell Death Differ, 13: 1027-36, 2006.

2)   Takahashi A., et al. Evidence for the involvement of double-strand breaks in heat-induced cell killing. Cancer Res, 64: 8839-45, 2004.

3)   Miyakoda M., et al. Activation of ATM and phosphorylation of p53 by heat shock. Oncogene, 21: 1090-96, 2002.

4)  Gong L., et al. p53 protects cells from death at the heatstroke threshold temperature. Cell Rep, 29: 3693-707, 2019.

5)   Garbuz DG., Regulation of heat shock gene expression in response to stress. Mol Biol, 51: 352-67, 2017.

6)   Cuervo AM, Wong E, Chaperone-mediated autophagy: roles in disease and aging. Cell Res, 24: 92-104, 2014.

ハイパーサーミアに関する最近の話題37

 

がんのハイパーサーミア治療における超音波とマイクロバブルの併用効果について

 

鈴木 亮 (帝京大学)

 

がん治療におけるハイパーサーミア (HT) は,様々ながんで効果が認められている.また,HTが化学療法や放射線療法の感受性を高めることも,基礎や臨床研究で報告されている.そのため,HTによるがん治療効果を増強する併用療法についても研究が進んでいる.

近年,超音波とマイクロバブルの併用(USMB)を利用した細胞内への薬物・遺伝子デリバリー法や血管透過性亢進による能動的薬物デリバリー法が注目されている.この方法の原理は,マイクロバブルへの超音波照射により,マイクロバブルの振動や圧壊が誘導され,このとき生じる機械的作用が近隣の細胞膜に作用し,細胞膜に一過性の小孔が形成されることで細胞内に薬物や遺伝子を導入されることによる.また,このマイクロバブルの振動や圧壊が血流中で誘導されると血管内皮細胞に作用し,内皮細胞間の密着結合が一時的に弛緩することも報告されている.実際に,この方法を脳内の血管に適用すると,血液-脳関門(BBB)の透過性が増大する1-3).また,El Kaffasらは, USMBによる腫瘍内血管の傷害が放射線療法の効果を増強することを報告している4).しかし,これまでの検討では,HTとUSMBを組み合わせた研究は行われていない.今回紹介するSharmaらの報告は,ヒト前立腺がん移植マウスに対して,HTとUSMB併用によるがん治療効果を評価した内容である5)

 ヒト前立腺がん細胞(PC3)をSCIDマウスの皮下に移植し,3-4週間後に腫瘍径が 8-10 mm 程度となったところで,Definity(マイクロバブル)を静脈内から投与し,各種強度 (0-740 kPa) の超音波 (500 kHz) をがん組織に照射した.その後,マウスを43℃の温浴にてHT (0-50 分間) を行った.治療24時間後にがん組織のTUNEL染色行ったところ,USMBのみやHT 40分間のみにおいてTUNEL染色陽性細胞の増加は認められなかった.一方,HT 50分間のみの治療において,TUNEL染色陽性細胞の増加が認められた.さらに,246 kPa や570 kPa の超音波強度におけるUSMBとHT (40または50分間)の組み合わせにより,顕著にTUNEL染色陽性細胞の増加が認められた.このように,USMBとHTの組み合わせにより,がん細胞のアポトーシス誘導効率を高められることが明らかとなった.なお,超音波強度を740 kPaまで高くしても570 kPa と同等の効果であった.そのため,以降の検討では,570 kPa の超音波照射強度での検討を行った.

USMBでは,マイクロバブルの振動や圧壊が血管内で誘導されるため,血管内皮細胞が最も影響を受けるものと考えられる.そこで次の検討では,USMB (0-570 kPa) とHT (0-40 分間) で処理したがん組織を24時間後に取り出し,がん組織の切片をCD31抗体で免疫染色し血管密度の観察を行った.その結果,USMB単独治療ではがん組織内の血管密度の低下は認められなかった.また,HT 単独治療では,50分間の治療で血管密度の低下が認められた.一方,USMBとHTの組み合わせでは,USMB(246 kPa)とHT 40分間の組み合わせで血管密度の低下が認められ,USMB(570 kPa)との組み合わせではHT 10分間においても血管密度の低下が観察された.このように,USMBとHTの組み合わせにより,効率よくがん組織内の血管密度の減少を誘導できることが示された.そこで,USMB単独,HT単独またはこれらの組み合わせで1回治療を行ったときの治療効果を検討した.その結果,USMBやHTの単独治療では,治療効果がほとんど認められなかった.一方,組み合わせでの治療において顕著な治療効果が認められた.

 次に,週2回の治療を4週間繰り返して,治療効果を検討した.その結果,USMB単独では若干の腫瘍増殖抑制効果が認められた.一方,HT単独やUSMBとHTの組み合わせ治療では,2週目以降の腫瘍体積が増加しないことが明らかとなった.これらの群において,腫瘍体積の抑制効果は同程度であった.腫瘍内の状態を観察するため,Masson’s trichrome 染色(fibrosisの確認)およびKi-67の免疫染色(増殖細胞の確認)を行った.その結果,無処置コントロール群やUSMB単独治療群と比べて,HT単独とUSMBとHTの組み合わせ治療群では,fibrosisエリアの増大と増殖細胞の減少が認められた.この結果を詳細に検討したところ,USMBとHTの組み合わせ治療群ではHT単独治療群より,Ki-67陽性(増殖)細胞が顕著に少ないことが明らかとなった.

以上より,USMBとHTの併用治療は,HT単独治療より効果の高いがん治療法であると考えられる.このように,USMBとHTの組み合わせは,より効果的ながん治療法の開発における新たな治療戦略になるものと期待される.

 

参考文献

1) McDannold N., et al. Blood-brain barrier disruption induced by focused ultrasound and circulating preformed microbubbles appears to be characterized by the mechanical index. Ultrasound Med Biol, 34: 834-840, 2008.

2) Weber-Adrian D., et al. Strategy to enhance transgene expression in proximity of amyloid plaques in a mouse model of Alzheimer's disease. Theranostics, 9: 8127-8137, 2019.

3) McMahon D., et al. Evaluating the safety profile of focused ultrasound and microbubble-mediated treatments to increase blood-brain barrier permeability. Expert Opin Drug Deliv, 16: 129-142, 2019.

4) El Kaffas A., et al. Tumour vascular shutdown and cell death following ultrasound-microbubble enhanced radiation therapy. Theranostics, 8: 314-327, 2018

5) Sharma D., et al. Ultrasound microbubble potentiated enhancement of hyperthermia-effect in tumors. PLOS ONE, 14(12): e0226475, 2019.

ハイパーサーミアに関する最近の話題36

前立腺がんを対象にした金ナノシェルを用いた光温熱アブレーレーション治療

―臨床先行研究―

河合 憲康(名古屋市立大学大学院医学研究科 腎・泌尿器科学分野

世界的に光温熱がん治療(Photothermal cancer therapy, PTT)が注目を集め,多くの研究報告がされている.本手法は周囲組織には影響のない深達性の高い近赤外線(NIR)を照射すると熱を発生する金属ナノシェルを用いて,腫瘍をより選択的に,かつ効果的に光熱変換で腫瘍組織のみをアブレーションできる方法である.ナノシェルは球形の絶縁体の芯を薄い金属シェル(殻)で覆った~150 nm径の粒子である.NIR光(820 nm)照射によってナノシェル表面の伝導性金属電子が振動し,熱を発生する.いわゆる“ナノヒーティング”治療である.これらの原理は16年前に報告されており1),その後も基礎及び前臨床研究については多くの報告があるが,ヒトでの臨床報告例は少ない.ここで紹介する内容は低および中リスクと診断された16例のヒト前立腺がんを対象に有効性と安全性を検討した金―シリカナノシェル(AuroShells)を用いた光温熱療法に関する臨床研究の報告である2)

本研究では58-79歳までの前立腺癌患者で臨床病期T2a以下(転移がなく前立腺の左右どちらか片方みの限局性),Gleason score (グリソンスコア)4+3=7以下(いわゆる悪性度が低〜中)の16例を対象にPTTを実施した.16名はmultiparametric MRI (mpMRI)とエコーを融合させた生検(mpMRI-US融合生検)に,12カ所系統的生検を組み合わせた上で,前立腺癌は1カ所のみであると診断した患者である.治療プロトコールはAuroShells (7.5 mg/kg)を注射後,翌日に全身麻酔下,砕石位で会陰部からmpMRI-USのシステムで,NIR照射用のプローブを癌部位に刺入し3分間NIRを照射する.1,3,6,12ヶ月後に前立腺癌腫瘍マーカーPSA,および排尿症状,QOL意識,性生活の活動性を数値化するアンケート(それぞれIPSS, QOL Index, SHIM)を評価した.さらに3および12ヶ月ではmpMRIとmpMRI-US生検+12カ所系統生検を実施した. PSAは治療前6.7ng/mlであったが治療3ヶ月後は3.9ng/mlに低下した.CTCAE グレード3以上の有害事象も認めなかった.IPSS, QOL Index, SHIMも治療前後に有意な差は認めなかった.16例中NIR照射ができたのは15例,生検による治療部位の組織評価では3ヶ月後に9例(9/15:60.0%)は壊死組織となり前立腺癌は認めなかったが,12ヶ月後では13例(13/15:86.6%)が壊死組織で前立腺癌は認めなかった.結果は本法の低および中リスク群において有効性と安全性を示したものと言える.

前立腺癌治療もQOLの向上をめざし,癌部分のみを治療するFocal therapyが臨床でも注目されている.ここで用いたナノ粒子は比較的選択的に腫瘍部に取り込まれ,NIR光照射部のみでの発熱を利用する選択性の高い治療法である.今後も治療用ナノ粒子開発も発展すると思われ,癌のナノ治療研究がさらに進むことが期待される.

参考文献

1)  Hirsch LR, et al. Nanoshell-mediated near-infrared thermal therapy of tumors under magnetic resonance guidance. Proc Natl Acad Sci USA, 100: 13549–54, 2003.

2)  Rastinehad AR, et al. Gold nanoshell-localized photothermal ablation of prostate tumors in a clinical pilot device study. Proc Natl Acad Sci USA, 116: 18590-6, 2019.

 

用語解説

光温熱治療:Photothermal therapy (PTT)と称する.光増感剤を用い特定の吸収波長のレーザ光を照射する癌治療はPhotodynamic therapy (PDT,光線力学的治療)と称され臨床応用されているが光化学反応を利用する際に酸素が必要である.即ち癌の低酸素領域に対して効果は低くなる.また,光増感剤の光毒性による副作用も課題である.一方,PTTでは増感剤の金属コートしたナノ粒子に近赤外線を照射しその発熱を利用するため,低酸素性腫瘍も治療可能である.

mpMRI:multiparametric MRI.マルチパラメトリックMRIとは,従来から用いられてきた形態画像としてのT2強調像に,2種類以上の機能画像を組み合わせた診断法である.代表的な機能画像には,造影剤を用いて病巣の灌流を評価する造影ダイナミックと,水の拡散現象を画像化する拡散強調像がある.本法の有用性は,腫瘍検出・局在診断,悪性度の評価に加え,病期診断,治療効果判定,再発診断や予後予測と多岐にわたり,得られる診断情報は前立腺癌の適切な治療法の決定においてきわめて重要となっている.

 

グリソンスコア:前立腺針生検で採取した組織を顕微鏡で検査し,癌の悪性度を判断する評価指標.優勢病変(もっとも多い病変)と随伴病変(2番目に多い病変)を判定し,その数値の合計で2~10の9段階に分類する.グリソンスコアが高いほど,癌の悪性度は高い.

グリソンスコア 8以上:悪性度の高い低分化型前立腺がん

グリソンスコア 7:中等度の悪性度の前立腺がん

グリソンスコア 6以下:比較的進行の遅い高分化型前立腺がん

IPSS: International Prostate Symptom Score

SHIM score: Sexual Health Inventory for Men score

CTCAE: Common Terminology Criteria for Adverse Events

ハイパーサーミアに関する最近の話題35 

ハイパーサーミアを用いたBRCA発現腫瘍細胞におけるPARP阻害剤およびシスプラチンによる合成致死の増強および放射線増感作用について

近藤 隆(富山大学大学院医学薬学研究部

 

最近,複数の遺伝子の欠損が共存すると致死性を発揮する現象である合成致死 (Synthetic lethality)が癌治療の標的として注目されている.今回紹介するオランダのAcademic Medical Centerを中心としたグループはPARP (Poly(ADP-ribose) polymerase)1阻害剤 (PARP1-i)を用い,合成致死を標的にした温熱療法について研究をしている.PARP1はDNA複製を司る重要な酵素である.そのためPARP1の阻害は複製フォーク形成を阻害し,遺伝的不安定性を招き,DNA二本鎖切断を誘発しやすくし,結果として細胞死を誘導する.PARP1阻害によるDNA損傷は,BRCA2 (breast cancer susceptibility gene II) タンパク質を必要とするHR (homologous recombination, 相同組換え)で修復される.彼らはまず41〜42.5℃のマイルドハイパーサーミア(HT)はBRCA2の分解を促進することで一時的にその発現を低下させるので,HRを数時間だけ阻害し,その結果治療対象の腫瘍に合成致死条件を誘導することができることを示した1).シスプラチンはHTとの併用でその効果を増強することは知られており,彼らはさらにPARP1-i (NU1025,Tocris Bioscience, Bristol, UK)を併用した場合の細胞致死および腫瘍増殖遅延効果について調べた.細胞としてHR機能を有するラット横紋筋肉腫R1, ヒト子宮頚がんSiHaおよび HeLa細胞の3種類を用いた.3種ともHT処理(42℃, 1時間)でBRCA2発現は低下した.細胞周期解析,γH2AXフォーカス,アポトーシスおよび生存率を調べたところ,PARP1-iとシスプラチンおよびHT (42℃,1時間)との併用では生存率は減少し,この機序はDNA損傷の増加とDNA修復の低下で説明できる.R1細胞を移植したラット腫瘍モデルでも同様に治療増強効果が得られた.HR機能を保持した細胞でも有意な増強効果が得られたことより,PARP1-iとシスプラチンを用いた温熱化学療法はHR機能の有無に係わらず,有効な癌治療となることが示唆された2)

次に彼らはBRCA2保有および欠損の各2種の細胞の温熱による放射線増感効果に加えてPARP1-i併用効果について調べた.BRCA2保有および欠損細胞のPARP1-i毒性を調べたところ,欠損細胞が高い感受性を示した.BRCA2状態によらずHT(42℃, 1時間)は放射線増感したが,PARP1-i併用増感効果はBRCA2保有細胞で高かった.また,全ての細胞群で,HTと放射線およびPARP1-iの3者併用は2者併用に比べて最低の生存率,最高のDNA損傷およびアポトーシス生成を示した.これらの結果よりHTはHRの阻害に加えて,BRCA2欠損細胞においても放射線増感に寄与すること,PARP1-iを用いた3者併用はBRCA2状態によらず,全ての患者に有効である可能性が示された3)

本年のNatureの総説にがんにおける薬剤抵抗性について対策が取り上げられている4).この解決策として①がん化阻止を可能にする早期の腫瘍発見,②治療中の適応的モニタリング,③より高い奏功をもたらす新規薬剤や改良薬理学的指針の追加,に続いて,④ハイスループットの合成致死スクリーニングや臨床ゲノムデータの統合,数理モデル化によるがん細胞依存性の特定が挙げられており,合成致死は薬剤抵抗性の克服においても重要である.今後とも,合成致死を標的としたより選択性の高い薬剤開発とともに温熱の寄与についても研究が進むことが期待される.

 

参考文献

1) Krawczyk PM, et al. Mild hyperthermia inhibits homologous recombination, induces BRCA2 degradation, and sensitizes cancer cells to poly (ADP-ribose) polymerase-1 inhibition.

  Proc Natl Acad Sci U S A, 108: 9851-6, 2011.

2) Oei AL, et al. Enhancing synthetic lethality of PARP-inhibitor and cisplatin in BRCA-proficient tumour cells with hyperthermia. Oncotarget, 8: 28116-24, 2017.

3) Oei AL, et al. Enhancing radiosensitisation of BRCA2-proficient and BRCA2-deficient cell lines with hyperthermia and PARP1-i. Int J Hyperthermia, 34: 39-48,2018.

4) Vasan N, et al. A view on drug resistance in cancer. Nature, 575: 299-309,2019.

 

用語解説

合成致死(性) (Synthetic lethality): 単独遺伝子欠損では細胞や個体に対する致死性を示さないのに,複数の遺伝子の欠損が共存すると致死性を発揮する現象.「合成致死」分野の好例であるPARP阻害薬は,一本鎖DNA損傷を修復する機能を持つPARPと二本鎖DNAの損傷を修復するBRCAを治療標的とした薬剤である.本邦ではBRCA遺伝子変異陽性の卵巣癌を対象にしたAstraZeneca社のLynparza (Olaparib)が2018年に認可された.DNA損傷が起きた際,何らかの原因でPARPが機能しない場合でもBRCAが機能すればDNA損傷は修復される.しかし,BRCAに変異がありBRCAが機能しない細胞でPARPを阻害すると細胞死が起きる.このように,作用機序が明確かつ効果が示されていることから,「合成致死」分野の医薬品の開発が盛んに行われている.

PARP (Poly(ADP-ribose) polymerase) 1: ポリADP-リボシル化反応を触媒する酵素.本反応は真核生物に特異的な可逆的翻訳後修飾であり,DNA修復,転写調節,細胞死,中心体の分裂制御など,核内における多くの機能に関与している.DNA修復に関してPARPは,核DNAに生じた一本鎖切断端を認識してDNAに結合する.核DNAに結合したPARPは活性化され,ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (NAD)を基質としてPARP自身やDNA修復関連タンパク質にADP-リボースを付加し,ポリ-ADP-リボシル化を引き起こす.これによりDNA修復反応を活性化する.

ハイパーサーミアに関する最近の話題34

MR-HIFUマイルドハイパーサーミア治療の最近の動向―温度感受性ドキソルビシンリポソームの併用および放射線増感への利用

 

近藤 隆(富山大学大学院医学薬学研究部)

 

近年,MRガイド下に集束超音波治療を用いて局所的に患部を焼灼する治療法(以下MR-HIFU)は治療部位の画像把握とともに温度が実測できるため局所効果を目指した非観血的治療法として注目されている.最近では経頭蓋的照射が可能な装置が開発され,脳も治療対象となってきた.このMR-HIFUシステムをあえてマイルドハイパーサーミア(MH)に利用する試みが多くなってきた.また,薬物療法は必要な患部に必要な用量を届けることが鍵である.この観点で,MR-HIFUを正確な加温ができるMHとして利用し,画像誘導下に薬物送達を行ったラット横紋筋肉腫治療の報告1)やヒトでも温度感受性ドキソルビシンリポソーム(LTSL-DOX)と併用する試みは肝臓がんを対象に臨床第1相試験として報告されている2).一方,最適の加温時間や治療可能比に関する情報はまだない.今回紹介する論文ではMR-HIFUによるMHとLTSL-DOXとの併用療法で,加温条件の違いによって腫瘍組織のDOX濃度と治療可能比に差が出るかどうかを検討した3)

ここではウサギの肝臓に移植したVx2腫瘍を対象にLTSL-DOXとして“ThermoDoxR”を用いて局所及び全身におけるDOXの分布を42℃,10分及び40分の加温時間で比較した.時間的,空間的に制御されたMHを実施するためにMR-HIFU (周波数1.2 MHz, 出力40-60 W)を用いた.LTSL-DOX投与は加温開始5分で行われた.腫瘍,心臓,筋肉,肝臓,腎臓,脾臓および肺の組織中DOX濃度を調べたが,腫瘍のみ10分および40分の比較で加温に伴う濃度増加(約2.4倍)が認められた.また,非加温腫瘍に比べた腫瘍組織中の薬剤濃度は10分で2.7倍,40分で5.8倍増加した.心臓を対照臓器として加温腫瘍へのドキソルビシン取り込みの比で評価された治療可能比Therapeutic ratioは10分加温で1.9 + 1.3,40分加温で4.4 + 1.8であり,40分加温が優れていた.MR-HIFUは前臨床研究として用いたウサギVx2腫瘍モデルでの温度モニターと制御による正確なMH治療が可能で,リポソーム由来の高濃度のDOXを標的患部に提供する効率的手法である.

今年になって,集束超音波ハイパーサーミアによるHigh gradeグリオーマ放射線療法の増強に関する総説4)および放射線増感のための超音波ハイパーサーミア技術に関する総説5)が発表され,温度モニターできる“正確な”ハイパーサーミア治療(MR-HIFU, MRg-FUS)と放射線治療の併用に関して今後の動向に興味が持たれる.

 

参考文献:

1)  Hijnen N, et al. Thermal combination therapies for local drug delivery by magnetic resonance-guided high-intensity focused ultrasound. Proc Natl Acad Sci U S A. 114: E4802-11, 2017.

2)  Lyon PC et al. Safety and feasibility of ultrasound-triggered targeted drug delivery of doxorubicin from thermosensitive liposomes in liver tumours (TARDOX): A single-centre, open-label, phase 1 trial. Lancet Oncol. 19:1027-39, 2018.

3)  Bing C et al. Longer heating duration increases localized doxorubicin deposition and therapeutic index in Vx2 tumors using MR-HIFU mild hyperthermia and thermosensitive liposomal doxorubicin. Int J Hyperthermia 36: 196-203, 2019.

4)  Schneider CS et al. Radiosensitization of high-grade gliomas through induced hyperthermia: Review of clinical experience and the potential role of MR-guided focused ultrasound. Radiother Oncol. S0167-8140(19)33010-5, 2019.

5) Zhu L et al. Ultrasound hyperthermia technology for radiosensitization. Ultrasound Med Biol 45: 1025-43, 2019.

 

用語解説:

MR-HIFU:Magnetic Resonance–High-intensity focused ultrasoundのこと.MR ガイド下集束超音波(MRI–guided focused ultrasound:MRgFUSやMRgHIFU)と称する場合もある):MRIでリアルタイムに治療部位と温度をモニターしながら,超音波を集束させて,組織を熱凝固あるいは加温する装置である.本邦では今年から,経頭蓋的照射が可能な装置での薬剤抵抗性本態性振戦(essential tremor)の治療に保険適用が認められた.本装置では非観血的脳手術が可能で,パーキンソン病の治療応用も検討されている.集束超音波は前立腺肥大,同癌,子宮筋腫の焼灼療法や乳癌治療にも利用されてきたが,骨転移に伴う治療抵抗性の痛みに対する使用も検討されており利用は広がりをみせている.MRIと一体化した治療装置としてはSonalleve (MR-HIFU),Profound Medical Co. CanadaおよびExablate(MRg-FUS),INSIGHTEC Ltd. Israelがある.Exablate Neuroは経頭蓋的照射用のINSIGHTECの製品である.

 

LTSL-DOX:ドキソルビシンを内部に含むLysolipid thermally sensitive liposomes.  ThermoDoxRはCelsion Corp. NJ, USAの製品である.

 

High grade グリオーマ:WHO脳腫瘍分類第4版(WHO2007)では,グリオーマは星細胞系,乏突起膠細胞系,上衣系に大別される.例外的に良性腫瘍である限局性グリオーマはWHO grade Iに,その他の浸潤性グリオーマは,低悪性群についてはgrade II,悪性群についてはgrade IIIに分類される.最悪性度のgrade IVは星細胞系腫瘍にのみが設定されている(膠芽腫,glioblastoma).

ハイパーサーミアに関する最近の話題33

温熱治療は腫瘍をHot tumor化することで免疫チェックポイント阻害剤の効果を増強する

 

横堀武彦(群馬大学未来先端研究機構 統合腫瘍学研究部門)

浅尾高行(群馬大学未来先端研究機構 ビッグデータ統合解析センター)

 

近年,免疫チェックポイント阻害剤が手術,抗がん剤,放射線と並ぶ第4の治療ツールとして注目されている.特にT細胞上で発現するPD-1や腫瘍細胞に発現するPD-1リガンド (PD-L1:別名CD274, B7-H1)を標的とした免疫チェックポイント阻害剤が悪性黒色腫,肺がんなどで著効することが報告されている.しかし,免疫チェックポイント阻害剤が効果を示す症例は10〜20%前後であり過半数の症例には薬効を示さず,その耐性メカニズムの解明と増感剤の開発が実臨床において切望されている.現在のところ,免疫チェックポイント阻害剤に抵抗性を示す症例の特徴として,腫瘍への免疫細胞浸潤に乏しく免疫チェックポイントタンパク質を発現しない腫瘍,いわゆる炎症反応に乏しいCold tumorと呼ばれる病態が挙げられる.このCold tumorの免疫細胞浸潤や免疫チェックポイントタンパク質発現を増進させる治療ツールはCold tumorをHot tumorに転換することで免疫チェックポイント阻害剤の増感剤になり得ると考えられており,実際にOncolytic virusなどはその候補として有望視されている1, 2)

温熱治療はがん細胞に直接的に作用し,抗腫瘍効果を誘導するだけでなく,腫瘍免疫を活性化 (血流増加による免疫細胞浸潤↑,がん特異的抗原提示↑など)することも知られている.今回紹介するLiuらの研究では,FVIO-mediated mild hyperthermiaがマウスの乳がんモデルにおいてPD-L1を標的とした免疫チェックポイント阻害剤の感受性を有意に亢進させると報告している3).特に,温熱とPD-L1阻害療法の併用により腫瘍増殖がほぼ完全に制御でき,さらに,肺転移も有意に抑制される点は非常に興味深い.また,そのメカニズム解明のために温熱介入後の腫瘍局所の免疫細胞浸潤を評価した結果,温熱により有意に腫瘍内にCD8陽性T細胞が浸潤し,腫瘍免疫を抑制する骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell: MDSC)の浸潤は有意に低下していた.さらに,温熱とPD-L1阻害療法を併用することでより有意なT細胞浸潤亢進とMDSC浸潤低下が観察された.

これらの知見から,温熱治療は局所の腫瘍免疫反応を亢進させ (Cold tumor→Hot tumor),さらには免疫チェックポイント阻害剤の増感治療ツールとなり得ることが示唆された.今後,温熱治療により治療標的腫瘍を文字通りHot tumorに転換する治療戦略と免疫チェックポイント阻害剤併用の意義をさらに検討していく必要があるだろう.

 

参考文献

  • Ribas A, et al. Oncolytic virotherapy promotes intratumoral T cell infiltration and improves anti-PD-1 immunotherapy. Cell 170: 1109-1119, 2017. 2017.
  • Haanen JBAG. Converting cold into hot tumors by combining immunotherapies.

      Cell 170: 1055-1056, 2017.

  • Liu X, et al. Ferrimagnetic vortex nanoring-mediated mild magnetic hyperthermia imparts potent immunological effect for treating cancer metastasis. ACS Nano. 13: 8811-8825, 2019.

 

用語解説:

免疫チェックポイント阻害剤:免疫チェックポイントタンパク質は免疫細胞により自己の組織が攻撃されないように,バランスを維持するため機能しているが,がん細胞はこの機能を利用して生体内で生存,増殖している.この免疫チェックポイントタンパク質を標的とする治療薬は免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれ,さまざまな癌腫で顕著な治療効果が報告されている.この「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」により京都大学の本庶佑教授はノーベル医学生理学賞を受賞している.

 

Cold tumor/Hot tumor:PD-L1などの免疫チェックポイントタンパク質の発現に乏しく,T細胞などの免疫細胞浸潤の少ない腫瘍は免疫チェックポイント阻害剤の感受性に乏しくCold tumor,逆に免疫チェックポイントタンパク質が発現し細胞障害性T細胞の高度な浸潤を認める腫瘍は免疫チェックポイント阻害剤の効果が高くHot tumorと呼ばれている.

 

Oncolytic virus:腫瘍溶解性ウイルスはがん細胞に感染して細胞死を誘導するウイルスの総称でありアデノウイルス,レオウイルス,ヘルペスウイルスなどが知られており,現在はより腫瘍選択性を高めるための改良が進められている.参考文献1)でRibasらが用いたTalimogene laherparepvec(T-VEC,商品名Imlygic)は遺伝子組換え腫瘍溶解性ヘルペスウイルスでありメラノーマに対する治療薬として,すでにFDAに承認されている.

 

FVIO: ferrimagnetic vortex-domain iron oxide nanoring (FVIO)は磁気ナノパーティクルを利用し,温熱を誘導する手法の一種.

ハイパーサーミアに関する最近の話題32

温熱負荷腫瘍細胞由来のエクソソームはIL-6を介して制御性T細胞からTh17細胞への変換により腫瘍増殖を阻害する

近藤 隆(富山大学大学院医学薬学研究部

 

近年,細胞外小胞(Extracellular vesicle)の一つであるエクソソームは細胞から分泌され,体内を循環し,細胞間情報伝達を担い,そして,多くの疾患との関連が報告され,今非常に注目されている.癌治療との関連で,腫瘍細胞由来のエクソソーム(TEXs: Exosomes derived from tumor cells)に関する報告は多いが,温熱負荷による腫瘍細胞由来エクソソーム(HS-TEXs: Exosomes derived from Heat-Stressed tumor cells)の分泌やその働きについての報告は, 必ずしも多くない.

HS-TEXsは多くのHSP70を含み,免疫原性が高く,効率よく腫瘍特異的傷害性T細胞応答を担うこと1),ヘルパーT細胞の一種であるTh1細胞を誘導し,抗腫瘍効果を示すこと2)等が報告されている.

HS-TEXsの強力な抗腫瘍免疫応答はこれに含まれる多量のHSP70によるものであり,HSP70によって誘導されるIL-6はIL-17発現を促進し,抗腫瘍効果を発揮することが知られているが,HS-TEXsが制御性T細胞(Tregs)からTh17細胞への変換により抗腫瘍効果を発揮するか否かは不明であり,今回紹介する研究はこのことを検証するために行なわれた3)In vitro実験では,マウス結腸癌MC38を使用した.TEXsとHS-TEXs(加温条件は42℃,1 h)を比較したところ,後者の方がHSP70およびHSC70の量は多く,Alix (apoptosis-linked gene 2-interacting protein X)は少なかった.HS-TEXsは骨髄の樹状細胞からのIL-6分泌をより強く刺激した.また,樹状細胞から分泌されたIL-6は腫瘍細胞由来のTGF-β1の誘導によるTregs (Foxp3+細胞を指標に)の分化を阻害し,Th17細胞(IL-17+細胞を指標に)の分化を促進した.しかし,IL-6-/-マウスから得られた樹状細胞を用いた場合は,HS-TEXs によるTh17細胞の分化促進は見られなかった.In vivo実験では,TEXs と比較してHS-TEXsはMC38担癌マウスモデルで強力な腫瘍増殖遅延効果と,効果的なTregsからTh17細胞への変換効果を示した.しかしIL-6-/-マウスにおける担癌モデルでは、やはり上記の効果は消失した.したがって,HS-TEXs による抗腫瘍効果はIL-6依存的であることが示された.またIL-17中和抗体で処理するとTEXsの抗腫瘍効果は消失したが,HS-TEXsの抗腫瘍効果の消失は部分的であった.

さらに,ハイパーサーミア治療(装置はNRL-002型で,30.32および40.68 MHz の波長を利用するRF加温装置,Jilin Maida Co., Jilin, Chinaを使用,直腸温度で39oC,60分加温)を受けた結直腸癌患者12例(40-60歳)では血清中のIL-6 およびIL-17のレベルが上昇し,また,治療後の単離された末梢血単核細胞分画のCD4+T細胞あたりのTh17細胞の増加とTregsの減少が判明した.

以上より,本研究成果はHS-TEXsは免疫抑制性TregsからIL-6を介してTh17細胞に変換する高い能力を有しており,臨床的にも抗腫瘍効果に貢献する可能性を示した.臨床例でHS-TEXsが直接関係するか否かは今後の検討に委ねられるが,今後とも温熱刺激に特異的なTEXs研究がさらに進むことが期待される.

 

参考文献

1)  Dai S et al. More efficient induction of HLA-A*0201-restricted and carcinoembryonic antigen (CEA)-specific CTL response by immunization with exosomes prepared from heat-stressed CEA-positive tumor cells. Clin Cancer Res, 11:7554-7563, 2005.(熱負荷は43oC, 1時間).

2)  Cho JA et al. MHC independent anti-tumor immune responses induced by Hsp70-enriched exosomes generate tumor regression in murine models. Cancer Lett, 275:256-265, 2009.

3)  Guo D et al. Exosomes from heat-stressed tumour cells inhibit tumour growth by converting regulatory T cells to Th17 cells via IL-6. Immunology, 154: 132-143, 2018.

 

用語解説

エクソソーム(Exosome):細胞から分泌される直径50~150 nmの顆粒状の小胞.表面は細胞膜由来の脂質や膜タンパク質で構成され,内部は核酸(mRNA, microRNA, DNA)の他,多胞体形成関連タンパク質(Alixなど)や熱ショックタンパク質(HSP70, HSP90)などを含む.エクソソームは血液中を循環しており細胞間情報伝達を担っている.がんや神経変性疾患をはじめとする多くの疾患との関連の報告もある.また,エクソソームを病気の診断や治療に利用する検討も多く,PubMedでExosomeを検索するとヒット数は1万件以上である.

 

制御性T細胞:Tregと称する.今年度の文化勲章の受章者である坂口志文大阪大学特任教授が発見した免疫応答の抑制的制御(免疫寛容)を司るT細胞の一種. 免疫応答機構の過剰な免疫応答を抑制するためのブレーキ(負の制御機構)や,免疫の恒常性維持で重要な役割を果たしている.がん細胞はこの制御性T細胞を利用して,免疫系からの攻撃を回避している.

 

Th17細胞:ヘルパーT細胞(Th細胞)のサブセットの一つであり,近年新たに発見されたものである. サイトカインであるインターロイキン(IL)-17を産生する能力を有することからこの名がある.

 

IL-6:T細胞やマクロファージ等の細胞により産生されるレクチンであり,液性免疫を制御するサイトカインの一つである.IL-6受容体は分子量130 kDaの糖タンパク質であるgp130(CD130)と会合して細胞内に情報を伝える.IL-6は1986年に相補的DNA(cDNA)が大阪大学の平野 (現、量子科学技術研究開発機構(QST)理事長) らによりクローニングされ,以降IL-6は非常多くの生理現象や炎症・免疫疾患の発症メカニズムに関与していることが明らかになった.

 

NRL-002型加温装置他の情報は以下のHPを参照:

http://www.jlmaida.com/index.php?c=Product&a=product_list&pro_cat_id=2

ハイパーサーミアに関する最近の話題31

温熱抵抗性におけるStat3とHsp105の関与について

田渕 圭章 (富山大学)

腫瘍の温熱抵抗性の獲得がハイパーサーミア (HT) の問題点の一つである.細胞に予めマイルドHT (MHT) を与えておくと,その後のHTに対して一過性に耐性になる温熱抵抗性には,熱ショックタンパク質 (HSPs),特にHsp70 が重要な役割を演じていると考えられている1).しかし,その獲得のメカニズムの全貌はまだ完全には解明されていない.以前に,Hsp70のプロモーター領域には転写因子signal transducer and activator of transcription (Stat) 3の結合部位があり,MHTによるHsp70発現誘導にStat3が関与することが報告されていた2).これに関して本年,MHTによる温熱抵抗性にStat3が関与するという興味深い論文が報告された3)

ヒト子宮頸がん細胞HeLaにおいて,MHT (43 oC,1時間) 負荷の後に37 oCで5時間回復培養した際に,HT (45 oC,1時間) に対する明らかな温熱抵抗性を示した.インターフェロンαは,Stat3をリン酸化し,リン酸化Stat3を核移行させる.この効果と同様に,MHT処理細胞では,リン酸化Stat3の高発現が核において観察された.MHTによるStat3の活性化は, Stat3のリン酸化に関与するJAK (Janus kinase) チロシンキナーゼ阻害剤AG490により抑制された.Hsp70の発現レベルに対する効果を検討したところ,AG409はMHTによるHsp70の発現誘導を完全ではないものの,約50%程度,有意に阻害することが判った.また,HeLa細胞への本化合物の前処理は,HTによる細胞障害に対するMHT前処理の効果を有意に減弱させた.これと同様の減弱作用がStat3の阻害剤Statticでも観察された.以上より,MHTの温熱抵抗性獲得におけるStat3の関与が示唆された.次に,HSPs発現に対するこれらの阻害剤の効果が調べられた.MHT処理による抵抗性獲得細胞において,AG490は,Hsp27, Hsp70とHsp105の発現誘導を有意に阻害したが,Hsp60とHsp90の発現には影響をおよぼさなかった.一方,StatticはHsp105の発現誘導のみを阻害した.著者らはこの矛盾を説明していないが,さらに,温熱抵抗性におけるHsp105の役割を検討した.Hsp105に対するsiRNA(small interfering RNA)を用いた機能阻害実験により,MHTによる温熱抵抗性にHsp105が関与することが示された.これらの結果から,著者らは温熱抵抗性にStat3の活性化に続くHsp105の発現誘導が重要であると結論している3)

Stat転写因子群は,様々な細胞機能を調節する非常に重要な分子群である.熱ショック転写因子HSF1が,Stat1と転写複合体を形成後にHsp27の発現を誘導し,温熱抵抗性に寄与するという報告がある4).また,Stat1,Stat3とHSF1の転写複合体が,Hsp90の発現に関与することが示されている5.温熱抵抗性における,Stat,HSF1やHSPsの各々の分子や分子間の相互作用の詳細が解明され,臨床へ応用されることが期待される.

 

参考文献:

1) Lindquist S. The heat-shock response. Annu Rev Biochem. 55: 1151-91, 1986.

2) Yamagishi N., et al. Hsp105beta upregulates hsp70 gene expression through signal transducer and activator of transcription-3. FEBS J. 276: 5870-80, 2009.

3) Matozaki M., et al. Involvement of Stat3 phosphorylation in mild heat shock-induced thermotolerance. Exp Cell Res. 377: 67-74, 2019.

4) Yokota S., et al. Suppression of thermotolerance in mumps virus-infected cells is caused by lack of HSP27 induction contributed by STAT-1. J Biol Chem. 278: 41654-60, 2003.

5) Chen X.S., et al. Diverse effects of Stat1 on the regulation of hsp90alpha gene under heat shock. J Cell Biochem. 102:1059-66, 2007.

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